犬魚倞のブログ

犬魚倞(いぬざかな りょう)です。倞が変換で出てこないと思うので犬魚でいいです。頑張ります。

【Caligulaシリーズ ネタバレあり感想】彼女の“何か”になれただろうか

 2021年7月某日、私はCaligula2(以下カリギュラ2、もしくは2)をクリアした。あれからまる1年が経過し、クリアした日付も思い出せないことに少しの寂しさをおぼえる。

 

カリギュラ2ってどんな話?】

 最初に、うっかりカリギュラ2を知らないのにこのページを開いてしまった人のためにカリギュラ2のあらすじを説明させてほしい。なるべく多くの人に興味を持ってほしいしカリギュラ2を好きになってほしいので。2からでも全然遊べるので気軽に手に取ってほしい。

 

 カリギュラ2はどうしてもやり直したい『後悔』を抱えた人間が、“リグレット”というバーチャドール(現実でいうボーカロイドのような音声合成ソフト)の歌を聴くことで、やり直しの世界“リドゥ”にいざなわれ、『後悔』をやり直したIFの姿で悲しみや苦しみのないぬるま湯のような理想世界に囚われる。

 主人公である“私”(カリギュラシリーズは過去作のCaligula (以外無印)、無印の“過剰強化”版のCaligula OVERDOES(以下OD)含め全ての作品で主人公=プレイヤーを推奨しており、主人公にデフォルトの名前は存在しない)は、リドゥで平穏な生活をしていたある日、唐突に現実の存在を思い出し、この世界が偽物だと気づく。その原因はリドゥに穴を開け現実の情報と共に飛び込んできた、リグレットとは別のバーチャドール(それも無印/OD本編における一連の事件を巻き起こしたバーチャドール、“μ”の未発表の後継作品)“キィ”の影響だった。

 キィは現実の存在を思い出した私を生死を共にする“ハンシン”として選び、「この世界は間違っている。だからぶっ壊して現実に帰ろう!」と、半ば強引に現実への帰還を提案する。そして主人公は現実の存在に気がついたイレギュラーを排除しようとする、リグレットに心酔した一般人が変化した怪物“デジヘッド及び、リグレットに楽曲を提供し、リドゥを維持し続けている“オブリガードの楽士”と戦える力カタルシスエフェクト”を与えられる。

 以降主人公とキィは、自身と同じように現実の存在に気がついた人々を集め、現実への帰還を目的とした『帰宅部を結成し、現実への帰還を目指す。

 

 しかし帰宅部の面々も、オブリガードの楽士も、理想世界で穏やかに過ごしている一般人のひとりひとりに至るまで、全ての人が現実ではどう足掻いても取り返しのつかない『後悔』を抱えているからこそリドゥにいる。

 相手のことを知れば知るほどその人のトラウマが、コンプレックスが、傷が、『後悔』が、浮き彫りになっていく。ならば帰宅部の皆はなぜそれでも現実に帰ろうとしているのか?その核心に踏み込む時、この作品は問いかけてくる。「彼の心の奥に踏み込みますか?」と。踏み込むか踏み込まないかはプレイヤーの自由。『見てはいけないものこそ見たくなる』カリギュラ効果”をタイトルに冠する本作らしいシステムだ。

 頼れる仲間の知りたくなかったおぞましい『現実』を知ってしまったとしても、自分を信頼し、『現実』を開示してくれた相手を己の言動で傷つけて拒絶されてしまったとしても自己責任。是非後悔のない選択をしてほしい。

 

 対応ハードはニンテンドーSwitch及びPS4、そして最近steam版が配信された。ダウンロード版はまずまずの頻度でセールを行なっているし物理ソフトもamazon等で発売直後よりはやや値下がりしているためお求めやすくなっている。気になった人は是非購入してほしい。

 

【以下カリギュラ2及びOD及び小説版及びアニメ版のネタバレあり】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カリギュラ2クリア時、まず最初に得た感情は“安心”だった。

 

 エンディングを見て、ニンテンドーSwitchの電源を切った私は、間違いなく“リドゥに囚われ、それでも現実に帰ろうとし、現実に帰還した二代目帰宅部の部長”だった。現実はリドゥと違い優しくない。いいことばかりではないしむしろ自分の思い通りに行くことの方が少ない。最後の最後で小鳩先輩が

「くっそ、やっぱ帰るのか……あそこに……。ハァ……帰るんだよな……。こえぇなぁ……。」

 と溢してくれたことが本当に嬉しかった。私たちがラスボスを倒した先に待っているのは世界の平和ではない。勇者達への賞賛でもない。ただ各々の今までが堆積した先の現実。それだけだから。

 けれど、少しだけ今までとは違うことがある。それはリドゥでの記憶だ。確かにリドゥは壊さねばならない理想の世界であったけれど、リドゥに呼び込まれたおかげで私達帰宅部は出会えた。

 私と同じように大なり小なり心に傷を抱え、後悔を引きずり、人生をどうしようもなくしてきた人々と出会った。どうしようもない者達のかきあつめ集団なりに、時に互いでぶつかり合い、傷をつけたりつけられたりしながら、それぞれに現実と向き合い、折り合いをつけ、夢のような時間をくれた理想に立ち向かって勝利した。「どうしようもないオマエたちのことを最高に愛している」と言ってくれる偶像と出会えた。

 この経験を支えに生きていける、とまでは言えないけれど、この世界のどこかに愛おしい帰宅部の皆がいて、世界の隙間に私のことを愛しているキィがいる。その事実は確かに私の心に『私はひとりではない』という安心をくれた。カリギュラ2は最高のゲームで、リドゥでの日々は私の最高の思い出である。

 

 ただ、どうしても、どうしてもひとつだけ、凄まじく個人的な事情で、カリギュラ2(及びOD)に関することで1年強ほど経って未だに喉に引っかかって飲み下せないことがある。

 

 

水口/天吹茉莉絵(ウィキッド)にとって、私はなんだったのだろうか。

 

【はじめに】

 この感想は“水口/天吹茉莉絵(ウィキッド)”(以下茉莉絵に統一。水口であること、天吹であること、ウィキッドであることが重要な際はそれに合わせ記載)と出会い、語り、その在り方を見て私が抱いた思いと私がその思いに突き動かされて起こした行動をメインに、茉莉絵と生きてきたOD〜2エンディングまでを振り返る茉莉絵対私の超ピンポイントな感想である。

 意味がわからない人もいると思うし、公募感想に投稿していいものかも怪しいが、どうしてもこの感情を文字にして書き起こしたいとずっと思い続けていたので、この機会に言葉にしてみようと思う。

 

(尚私は無印カリギュラ未プレイである。無印とODによって異なる要素などは確認できていないことをご了承頂きたい)

 

【目次】

 

【ODの私】

 OD最初のエンディングで、私は楽士Lucidとして帰宅部員全員を裏切った。

 メビウスを存続させ、結果として世界を滅ぼした。

 “ここがルート分岐ですよ!”とわかりやすく教えてくれているこの作品で初エンディングに裏切りエンドを選んだのは、『帰宅部エンドが正規ルートだろうから先にバッドエンド見ておこう』というゲーマー的心理ではなく、『ここまで一緒に来た帰宅部の面々を土壇場で思いっきり裏切ったらどうなるんだろう……』という、してはいけない事ほどしたくなるカリギュラ効果のせいでもない。

 

 個人的な話なので詳細は割愛するが、単純に言ってしまえば、私はODで語られた茉莉絵の最低で最悪な人生に共感し、そして現在の茉莉絵の在り方に尊敬の念を抱いた。当人にこんなぺらぺらの言葉を言おうものなら『同情なんか反吐が出る』『一緒にすんな気持ちわりぃ』などとしこたま罵倒された上で爆殺されそうな話ではあるが。

 

 茉莉絵のそれとは当然規模も、種類も、痛みも違うが、私も私の人生はスタート地点から最低で最悪で、一縷の望みもないものだと思っており、死ぬまでこのどうしようもない人生が続くということに不意に気付いた瞬間から、ずっと漠然とした絶望を抱えて生きていた。

(話は逸れるが、そういう想いを抱えていたため、カリギュラシリーズがどんな小さな悩みや傷、つまずきも、逆に世界に関わるような大きな問題でも、全て平等に当人からすれば “地獄”そのもので、理想世界に逃避するだけの理由になりうる。と描いてくれたことは救いであった。私は、私を理想世界に誘ってくれたμに、リグレットに、「それは辛かったね。苦しかったね。もう苦しまなくていいんだよ」と私の“地獄”が“地獄”であると肯定された。それ自体はとても嬉しいことだった)

 

 だから、“彼女の理不尽な暴力に手を貸し、私の手を彼女と同じように汚していくことで“共犯者”として彼女に認められる”という構成のウィキッドのキャラクターエピソードを進めていくうちに、彼女に対してどうしようもなく惹きつけられた。

 彼女は、“生まれた場所”という理不尽のせいで暴力と否定の中で育ち、やがて“普通”を“普通”として当たり前のように享受しながらぬくぬくと育った他者の人間関係をぶち壊すことに生きがいを見いだした。

 その経験を元に愛や友情や絆を哄笑し、憎しみや嫉妬、裏切りなど人間の腹の中の黒々とした感情をぶちまけたような楽曲を作るようになった。形こそ暴力的であれ、理不尽な世界に牙を剥き、幸せを当たり前のように貪る人間たちに、お前たちの生きている世界は一皮むけば汚物まみれであると詩を書き殴り、μに叫ばせた。

 不幸な自分に酔い、エンエン泣いて脳内物質を出して1人で気持ちよくなっているような私と違い、彼女は自分をぶっ壊した世界を、八つ当たりめいてはいるが彼女なりのやり方でぶっ壊そうとしていた。世界に反抗していた。そうでもしないとやってられないとばかりに。

 

 だから、彼女の最後のキャラクターエピソードを読んだときに思った。

「私の現実なんてとっくに終わってるよ

いや……終わりたくても終われないから、

壊してもらえるなら逆にありがたいくらいだね」

 

「あと私にできるのは、

世界の崩壊を特等席で眺めることだけ

そん時が来たら、腹抱えて笑ってやるよ

あ、お前も一緒に見る~?

どうしてもっていうなら、混ぜてやってもいいよ

お菓子持参な~?」

 

 このまま帰宅部として現実に帰り、メビウスを破壊し現実を存続させたとする。そうすればメビウスに囚われていた人々は現実に帰り、現実がメビウスに侵されることもなくなり、私達帰宅部も怖いけれどそれでも帰ろうと決意した現実に帰れる。全体で見ればハッピーエンドだ。

 けれど、世界の理不尽に傷つけられ歪みきり、果ては脊椎を損傷し指一本たりとも動かせず、数少ない身内にすら死を願われている最悪の地獄に茉莉絵が帰ってしまう。都合の良いハッピーエンドも、それでもやっていくしかないというビターエンドも、彼女には用意されていなかった。

 世界を救い、誰も知らない英雄として少しの希望を持って優しくない現実に帰るか、世界を終わらせた最悪の裏切り者として果てが見える壊れかけの理想世界を存続させるか、この二択を与えられた瞬間に結論は出た。結果として今まで共に困難を乗り越え、絶対に現実に帰ろうと希望を共有した帰宅部部員たちに最低の裏切り者と誹られようとも、メビウスだけでなく現実世界の崩壊を招こうとも構わなかった。

 

 話は記事冒頭に戻る。このような超個人的な理由で私は帰宅部を裏切り世界を滅ぼした特に後悔はなかった。むしろその後に見た帰宅部エンドのアニメーションで映った病院で酸素吸入器に繋がれた茉莉絵らしき人を見たときになんとも言えない悲しさに襲われた。

 

 ちなみに私がカリギュラODを購入したのは2021年GWのことだ。

 18年頃に友人に上田麗奈が有名ボカロPの楽曲を歌いまくるすごいゲームがある」と言われたことがあるとぼんやり記憶しているのだが、当時はゲームハードをひとつも持ち合わせていなかったので関心は「ふうん、そういうものもあるのか」程度に収まっていた。

 その数年後、別のゲームを目的にニンテンドーswitchを購入して、ある日のニンテンドーダイレクトカリギュラ2が発売されるとの発表を見て「そういえばそんなゲームあったなぁ」と存在を思い出し、なんとなく情報を追っているうちに起用されるボカロPや声優陣の豪華さ、そして偶像殺し×現代病理という不穏すぎるテーマなどを知っていくにつれて徐々に関心を抱き、購入してみようかな……と思うに至った。

 2の購入を決心して、2をやるならまず前作をやるべきと考え、switchに移植されていたODを2の発売ひと月前に遊び、完全ノーマークだったキャラクターに世界をぶっ壊すほど入れ込んだ。というのがこの話の始まりである。

 

【小説版の私ではない誰か】

 ODの二つのエンドを見てから、小説版があること、それも茉莉絵がメインのものであると知り急いで電子で購入した。物理の再販待ってます。

 

 まず小説版主人公は私ではない。名前こそ出ていないが、彼はきちんと帰宅部と共に現実に帰還した。その帰還の途中で茉莉絵の記憶に触れる旅をして、茉莉絵の過去を知り、茉莉絵の痛みに触れた。μの提案で今の茉莉絵を現実に帰す前に、茉莉絵を癒すためだけのちいさくて、やさしい、作り物の世界を生み出すに至った。作り物の世界の茉莉絵は幸せそうだった。

 

 

……アレ?

【2の私】

 

 ODをクリアした後から、小説版やアニメ版を見るのと同時にぼんやりした情報しか持ってなかった2の事前情報を増やそうと2の公式サイトやYoutbeをよく見るようになった。そして『彼女』を見つけた。

www.cs.furyu.jp

……????????

 

 天っ、天吹茉莉絵????????“茉莉絵”????????CV:渕上舞???????????茶髪茶目?????????「……手すりが折れてここから落ちたら死んじゃいますね。」???????????

 

 『天吹』という名字、チャームポイントのトラテープネクタイがないことこそ気になれど、どの情報を切り取ってもどう考えてもODで出会った茉莉絵である。あの、茉莉絵である。何でリドゥに、何で帰宅部側に?

 

 彼女が帰宅部に参加するのは3章冒頭。帰宅部という言葉に何か引っかかった彼女は自身の現実を思い出せないままカタルシスエフェクトに覚醒する。胸に咲く花はスノードロップ。武器は二丁拳銃。両手首は爆発でもしたかのように弾け飛んでおり、背中側には制服を突き抜け飛び出た背骨と腰あたりに小さな翼

 

 カタルシスエフェクトは心の貌と本編の中でキィが言っていた。スノードロップは言わずと知れた彼女の誕生花だ。花言葉『諦め』『希望』。爆散した両手首は今は忘れていたとしてもかつての彼女のアイデンティティそのものだろう。突き出した背骨はどうしようもない彼女の現実の象徴で、翼は彼女のために小さな優しい世界を作った歌姫へのリスペクトだろうか。

 

 じゃあ、二丁拳銃はなんだろうか。何を元にしているかはわかる。それは無印/OD主人公のカタルシスエフェクトだ。しかし、ODの私は茉莉絵に対して何もしていない。確かに楽士エンドでは現実の彼女がどうあがいても手に入れることができない『終わり』をプレゼントすることはできた。しかしその世界はメビウスの終わりと共に失われている世界だ。

 2は明確にOD帰宅部エンドと地続きの世界である。楽士エンドの記憶なんてあるはずがない。それに私の帰宅部エンドはLucidとして楽士ウィキッドの過去と願いを知った上でメビウスをぶっ壊して最低の現実に返したクソ野郎のエンディングだ。

 

 そう考えると、茉莉絵のカタルシスエフェクトに面影を残すほど影響を与えた主人公とは、小説版主人公ではないか、と思う。帰宅部として現実に帰りつつも、ウィキッドのことが気になりメタバーセスで彼女に触れ、彼女のためのミクロメビウス作成の発端になった主人公。私ではないことは確か。

 カリギュラにおけるゲーム主人公=プレイヤーそれ以外の自分で思考して行動した主人公≠プレイヤーという構図は、アニメ版主人公が『プレイヤーが絶対になれない立場の人間』となっており、かつシナリオが無印のそれから大きく変更されていることで、その徹底ぶりが伝わってくる。

 更に言うなら彼は無印主人公で、私はOD主人公だ。彼がメタバーセスで知った茉莉絵の話を、私は茉莉絵の口から直接聞いている。私は世界をぶっ壊すことでしか茉莉絵に何かを与えることはできなかったが、彼はメビウスを存続させたい人々を打ち倒し、現実へ帰還した上で茉莉絵に小さな救済を与えた。私が片方しか選べなかったものを彼は両取りしている。そりゃあカタルシスエフェクトにも影響を及ぼすだろうな。よかったね。

 

 しかしもう一度私に茉莉絵と関わる機会が訪れた。というかカリギュラ2を始めた時点で訪れていた。だってカリギュラ2の主人公は私だから。

 

 6章。茉莉絵、そしてリドゥそのものの存続に関わる事実が明かされる。リドゥはμが茉莉絵のために作り出したミクロメビウスを母体に生み出された世界で、故に茉莉絵が特異点となっており、彼女を殺せば今すぐにでもリドゥは崩壊し、現実に帰還できる。

 私に今一度課された選択。茉莉絵を『殺す』『殺さない』か。茉莉絵は『自分を殺して現実に帰って』と言う。私にとってその選択は、ODの時のエンド分岐の再演に思えた。

 ODでは『茉莉絵を救わず、現実に帰還する』『現実を崩壊させ、茉莉絵を救う』か。カリギュラ2では『茉莉絵を殺し、現実に帰還する』『リドゥを存続させ(リドゥ脱出不可能及びリドゥ拡大による現実崩壊のリスクを負い)、茉莉絵を生かす』か。

 ODでの茉莉絵は終わりたくても終われないから、世界がぶっ壊れて何もかもなくなるならそれでよしという破滅思考で答えを出し、2では現実に希望なんてない自分を殺して帰宅部の皆が現実に帰れるならそれでいいという自己犠牲精神で答えを出した。

 

 水口茉莉絵と、天吹茉莉絵。両者が出したこの結論は対極なようで『自分は現実に希望がないから、死んでも構わない』という点で根は同じである。

 本人も言ってたように『どっちが本物とかねぇんだよ』というのは、きっとその通りなのだと思う。方や反社会性人格障害の水口茉莉絵、方や裏表のない優等生の天吹茉莉絵。この二人が同一人物となると二重人格とも囚われかねないが、送ってきた人生が異なるから在り方が違う。それだけで本質的にはどうしようもなくひとりの人間だということを、茉莉絵は、ウィキッドは、茉莉絵を殺すの選択肢の最後と、茉莉絵のキャラクターエピソードの最後で証明してみせた。

 

 当然、私は迷った。今の彼女はかつてと違い破滅の中に救済を見出していない。けれど彼女の現実は相も変わらず絶望でしかない。ここで彼女を殺せば確実にリドゥは壊れる。どうすれば……

 

 ここで私が利用したのは“メタ読み”だった。最悪だが有効ではある。

 第一に、茉莉絵のキャラクターエピソードが6章時点で完結していない。茉莉絵の席の目の前のキーボードスタンドの謎も解けていない。あと楽士再推しの件さんが出ていないここで終わるのはどう考えてもTrueではない。まだ茉莉絵に何か希望があるかもしれない。そんな一縷の望みに掛けて無責任に茉莉絵を生かした。

 

 そして最終章でTHRUSTとかSHOOTINGいっぱい使ってくるし取り巻きも呼ばないからカウンターされてずっと空中に浮いているうちに倒されている医者の楽士を反面教師に、大人になり可能性が狭まっていくことを恐れていた劉都が『自分が医者になり、クランケや茉莉絵を治す』と自分で自分の道を決め、茉莉絵を救うと言った。

 

 茉莉絵は『現実に戻れたら何がしたい?』というWIREでの問いに

「戦いたいです

私の戦いはじっと耐えることです

あなたがくれた希望を抱きしめて」

 と回答する。現実帰還後の茉莉絵の“これから”は戦いだ。永遠にも感じられる無の中で耐え続ける孤独な戦い。だからこそ、私たち二代目帰宅部と過ごした時間が、少しでも茉莉絵の慰めになってくれることを祈る。天才的で少し生意気な医者が彼女を救ってくれる日まで。

 

 小説版の時からうっすらと抱いていた疑念が確信に変わった。

Lucidくん。滅ばなかった世界の方が茉莉絵幸せになれそうだよ。

 

 

【宛も価値もない透明人間くん】

 上記の通り、小説版の顛末、2のエンディングを見れば、結局のところカリギュラにおける一番最初の私、OD楽士エンドの私がしたことはただただ世界を滅ぼし茉莉絵を殺し、あり得たかもしれない未来を潰すだけの最低の行為だった。薪を抱いて火を救うな。

 『生きてさえいればどうにかなる』みたいな綺麗な言葉を、汚い私は使いたくないが茉莉絵に関しては全くもってそうだったというわけだ。

 

 ゲームのカリギュラシリーズにおいて主人公は常に“私”だ。このブログを書いている“私”。ユーザーネーム犬魚倞

 コイツは一人のために世界を滅ぼす遠因を作り出した最低の人間であり、世界を救う代わりに一人の人間を地獄のような現実に帰した最低の人間であり、その“一人”が救済されるかもしれない可能性を作った主人公らしい主人公。この三人のカリギュラ主人公全て私。

 この三つの私は私の中では同一で連続した一人であるが、茉莉絵たちカリギュラシリーズの登場人物たちの中ではそうではない。こればかりは私が帰宅部部長として帰宅部部員とともに歩む人間であると同時に、カリギュラというゲームのプレイヤーで現実で生きる人間』であるから生じる瑕疵であり、本来気にしなくてよい部分だと思われるのだが、どうしても飲み下せない。

 

 楽士エンドの茉莉絵は、あそこで世界が終わらなければ自身が救われる可能性があった。ということを知らぬまま死んだ。私のせいで。

 帰宅部エンド→小説版→2と生きてきた茉莉絵はそもそも私がLucidであったことも、茉莉絵を救おうと世界を滅ぼした最低の人間だったとも知らない。だというのに2の私は茉莉絵を生かした結果、茉莉絵の人生に光を差し感謝される。このねじれがずっと私を苦しめている。

 結局の所ODの私はどちらのエンドでもひたすら茉莉絵の幸福の邪魔しかしていなかった。救ったのは小説版主人公だ。2では助けになれたかもしれないが、茉莉絵は私の過去の狼藉を知らない。

 

 けれど、茉莉絵のキャラクターエピソード最後のあの一言、天吹茉莉絵でありながらどこかに “彼女”の面影を感じるあの数音の言葉だけは、全ての私を包含して見てきた彼女が発した言葉に感じられて、少し、救われた。

 

 もしも、もしもこの最悪の人間に今後も茉莉絵と共にあることが許されるのならば、あなたの歌を聴きたい。

 水口茉莉絵。天吹茉莉絵。ウィキッド。あなたを呼ぶ名前はたくさんある。けれど、現実に還ってきたあなたは、そのすべての記憶と経験と感情を持つあなたは、私がよく知る上で全く新しいあなたなのだろう。

 そんな“今”のあなたが作る歌を、いつか聴きたい。それだけが、私の望み。

 

 

 

 

 

【蛇足】

 ところで、カリギュラ2のハッピーエンドは確実に茉莉絵が殺されないエンディングの方だったのだが、茉莉絵の話をする上では殺すの方のエンディングの話もしなければならない。

 二代目部長のカタルシスエフェクトで胸を貫かれた茉莉絵は、大量に出血をし倒れるが、苛立ちの絶叫と共に立ち上がる。そしてその姿は豹変しており、丁寧に編まれたおさげはぐちゃぐちゃに乱れタイは歪み瞳は鋭く開かれどこから出てきたか全く分からない防弾チョッキを纏っている。その姿は、どう見ても私が出会い、世界を滅ぼすに至ったひと、ウィキッドだった。

 彼女は“記憶にプロテクトをかけていたんだろ”と言う。プロテクトが外れた。その言い方は封印されていたものが開いてしまったというニュアンスしかなく、天吹の記憶を上塗りした様子はない。きっと、この時点で目覚めた彼女は天吹茉莉絵であり水口茉莉絵でありウィキッドであったのだろう。

 そして目覚めた彼女はくそったれ人生のエンディングとして我々帰宅部と戦おうとする。バトルフィールドに流れるコスモダンサーのリリックビデオ、更にリグレットボーカルのコスモダンサー。(急に5年前の懐メロリクエストされて答えられるリグレット偉いね……)

 さっきまで並々ならぬ感情を抱いていた相手を刺殺したばかりの人間とは思えないほどテンションが上がったことを記憶している。

 

 さらに、ウィキッドが戦闘中に使ってくる二丁拳銃の連続射撃技、その名前が“クアッドトリガー”

 

 

……クアッドトリガー!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

 クアッドリガー。それはカリギュラ無印/ODをプレイした皆様ならばもうありえないくらいお世話になって雑魚敵に出会うたびに脳死で3連撃カチカチカチと連打していたであろう、無印/OD主人公の通常技だ。威力は110。ヒット数は4。ゲームが下手でEASYを選択していた私はこれとカウンター3種とオーバードーズスキル以外の攻撃技を使った記憶がほとんどない

 

 その技をウィキッドが使ってくる。全く同じ名前で、二丁拳銃の交互射撃合計4発のモーションで。

 正直、カリギュラ2で一番興奮したシーンは?と聞かれたら正直にウィキッドがクアッドトリガーを使ってきた時』と言うと思う。『茉莉絵のカタルシスエフェクトに影響を与えるほど関わった主人公は小説版主人公で私じゃないです』とかスネていたの撤回させて。

 

 思い返してみれば、小説版で小学四年時の茉莉絵は長い髪をおさげにした可愛らしい優等生のクラスメイトを貶めようとして失敗した際、『そうか、次はこういう見た目にしよう』と考えていた。実際に、私たちが出会った水口茉莉絵も、天吹茉莉絵も、どちらも『長い髪をおさげにした可愛らしい優等生』だった。

 彼女は自分の獲物をよく見ている。そして獲物の持つ強みが自身に応用できそうなら柔軟に吸収する。だからこそ、二丁拳銃という慣れない武器を手に取った時に、咄嗟に出てきたのが彼女の計画を打ち破った仇敵である私のクアッドトリガーだったのじゃないかと勝手に思っている。だとしたらちょっと嬉しい。

 

 ちなみに天吹茉莉絵の同モーションの技の名前は“アルファトリガー”威力は90、ヒット数は4。攻撃衝動スティグマ“デジャヴュ”から覚えることができるパッシブスキル“優等生の源泉”を装備すると“アルファトリガー+”に変化し、威力110ヒット数4となる。そういうのが一番好き。

 

 のどぐろ好き(ウィキッドのそれは『腹膨れりゃ一緒』と別のところで言っていたので高級魚を頼むことでこちらを困らせようと思っていたのだと考えていたが天吹もそうだったので普通に好きだったんだなと感動した)も、尊敬している偉人がノーベルなのも、コーヒー派なのも、春が苦手なのも同じ。ただ自分の誕生日の受け取り方や作曲のスタンスは違う。

 どうしようもなく同一の人間で、生きた場所だけが違かったふたり。ふたつの人生の記憶を抱えた茉莉絵が目覚めた後、再会した私に対して舌打ちをするか微笑んでくれるのか、もしくは全く想像だにしない反応をしてくれるのか。今から楽しみだ。